「蜘蛛の糸・杜子春」(芥川龍之介)

芥川作品最初の一冊、決定版は本書です。

「蜘蛛の糸・杜子春」(芥川龍之介)
 新潮文庫

「蜘蛛の糸」
地獄を覗き見た釈迦は、
罪人の中にカンダタを見つける。
カンダタは悪党であったが、
過去に一度だけ善行らしきことを
成したことがあった。
小さな蜘蛛を
踏み殺しかけて止め、
命を助けたことである。
それを思い出した釈迦は…。

ちくま文庫版
「芥川龍之介全集」1~8巻があれば、
ほぼすべての芥川作品を
読むことができます。
でも、中学生のように、
はじめて芥川を読むという場合、
どの出版社のどの文庫本を薦めるか?
決定版は本書です。
カバー裏の記載「健康で明るく、
人間性豊かな作品集」は
ややそぐわない部分があるものの、
全十編、
安心して薦められる作品ばかりです。

「犬と笛」
木こりの髪長彦は
三匹の犬を連れて、
さらわれた二人の姫の
救出に向かう。
犬は、美しい笛の音の礼として、
三人の神がくれた、
何でも嗅ぎ分ける「嗅げ」、
どこまでも飛んでいける「飛べ」、
どんなものでも噛み殺せる
「噛め」だった…。

「蜜柑」
三等のキップで
二等客室に乗り込んできた
貧しい身なりの娘に、
「私」は不快感をもよおす。
娘はトンネルに
さしかかるやいなや
客車の窓を開ける。
「煤を溶したやうな
どす黒い空気」を浴びて
咳き込む「私」。
不快感が頂点に達する頃…。

「魔術」
「私」はある雨の夜、
魔術師として高名な友人
マティラム・ミスラ君に
会いに行く。ミスラ君は
「魔術は欲のある人間には
使えない」と前置きをし、
「私」に魔術を教える。
数ヶ月後、
「私」は教えられた魔術を、
他の友人たちに披露する…。

「杜子春」
洛陽の西門の下で
三度不思議な老人と
まみえた杜子春。彼は
財力があるときは
ちほやするものの、
一文無しになれば
手のひらを返す人々に
愛想を尽かしていた。
彼はその老人を仙人と見抜き、
自らも人を捨て
仙人となることを望む…。

「アグニの神」
上海のある町のインド人老婆は、
一人の少女を霊媒として
アグニの神を降臨させ、
占いで儲けていた。
その少女は香港領事の娘で、
誘拐された妙子であり、
日本人・遠藤が探していた
少女であった。
遠藤は老婆の家に
踏み込むものの…。

純粋な児童文学として書かれた
「蜘蛛の糸」「犬と笛」などの中に、
大人向け、というより
芥川の傑作「蜜柑」や「トロッコ」を
しのばせています。
この構成の妙が、
本書の素晴らしいところです。
ここから他の芥川作品、
そして他の文学作品へと
読書の幅を広げていくことができます。

「トロッコ」
八歳の良平はトロッコに
強い興味を持っていた。
ある日、
土工に「押してやろうか」と
持ちかけると、
意外にも受け入れられ、
一緒にトロッコを
押すことになる。
はじめは有頂天だった良平は、
しかししだいに
帰りが不安になってくる…。

「仙人」
権助という男が
「仙人になりたいので、
そういう所へ
住み込ませて欲しい」と
口入れ屋に申し入れる。
番頭は近所の医者を紹介する。
医者の妻は
「20年間無給で奉公すれば
仙人になる術を教える」と告げ、
権助を住み込ませる…。

「猿蟹合戦」
蟹は、
とうとう握り飯を奪った猿を
誅殺した。
しかし物語は
それで終わりではなかった。
蟹・臼・蜂・卵は警官に捕縛され、
監獄に投ぜられる。
そして裁判の結果、
主犯格の蟹は死刑、
共犯の臼・蜂・卵は
無期徒刑に処せられる。
世論は…。

「白」
犬の白は、友達の犬の黒が
犬殺しに襲われるのを
目撃するが、
怖さのあまり逃げ帰る。
すると不思議なことに白の身体は
真っ黒になってしまう。
飼い主のもとを去り、
流浪していた白は、
助けを求める犬の鳴き声に、
勇気をふるい…。

子どもをお持ちのご家庭のみなさま、
ぜひ本書を子ども部屋の本棚に
そっと置いてみてください。

(2021.2.12)

adamova1210によるPixabayからの画像

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